自作解題――ギリギリつめこむ物語(fromあの丘)
というわけで短歌の感想。下書きで寝かせすぎてしまった。今回は短歌たちよ、わたしから離れて遠くへー! と思いながらつくりました。つまり、物語だったり、なにかが続いていく感じに。前回が自分自分で嫌になってしまったので。みる側からしたら変わらないよという感じかもですが、こちらの気分は全然違うのです。
今月の自分の短歌、だいたい特にコメントないなーって思ってるとこですね
— letofo (@isi_kami_hasami) November 17, 2015
あと、あんまり言うことないです。なかったです。
なんだけど、思ったこととか発想の順番とか書いておきます。ひねりだします。わたしがつくったんと違う、とかいってフラットに、ある意味無責任だなとも思うのだけど、フィーリングカップル方式というか、思いついた77と情景とをかけ合わせていく感じ。自分から離れるため、お題につき三首ずつ詠む、というのを考えたのですが、そうしたのもあり、最初からフィックスされたのもあり、色々。てにをはとか語尾をどうするか、くらいの推敲じゃなくて、もうこの単語で決定のレヴェルで決めたいという気持ちがあった。決然としている。
1. シチュー
猫と僕と君にはさまれ床に寝るふり回されたシチューの温度
★カレーライスじゃないからケンカになったんと思う。床に寝ているのはシチュー。
あと、そのまま猫と僕と君というのがあって、それはこれ。
2. 声
押し入れに隠れて泣く子に届くよにヒッヒッフーとか産婆のかけ声
★難産だった。二首目か三首目。いろんな声があるけど、ニッチなところを行きたいというのはいつでもあって、それで、弟妹がうまれるときの長子の気持ちとドーパミンめちゃくちゃ出てるんだろうなーみたいな産婆のハイテンションな声の対比。絶対わかってて大声出してるんですよ、産婆。ヤな奴だから。みたいなことまで考えてしまったわたしは長子。まあでも多分ほかにもいろいろ想像できそうな感じがあって、そのあそびがあるのが好きです。
3. 羽
カッコウの母さん甲斐ない羽蒲団新型iPhoneあたためている
★カッコウの鳥言葉、「母親への愛情」ですって。自分のたまごは他鳥にあたためさせて、じゃあなにをあたためますか? って。しかし鳥言葉とカッコウの認知度でフィックスしたので頭の中でつくってしまった歌。滑稽さと上と下のつながりの突然さは気にいっている。あたためたiPhoneのあたたかさを知るのはわたしたちとカッコウだけなのだった。
4. 信
新番組 深夜ラジオで浄罪を「MCイエスの俺を信じろ」
★ハイ、とゆーわけでね、はじまりました、MCイエスの俺を信じろ、司会はもちろんワタクシMCイエス! REPベツレヘム、やってきたオレ、あふれ出る慈悲、血も肉も全部与える月桂樹、めくるめく聖書をライムに讃美歌をビートに、イスラエルの綺羅星、父たる神も、きっと嫉妬、グッとくる短波にノ、せ、て、受験生から会社員、主婦の皆さんだーれでも迷える子羊ちゃんたちをすっべーて、導いていく新番組! 十字架を背負いながら(笑)、アノ丘からお送りしてマース! オーレーをー! 信じるかーい?!?!?!(フヮフヮ!!!)
フリースタイルラップに昼も夜もなくはまっている最近ですね。厩つながりで聖徳太子と2MCのユニット組んでほしいですね。
5. カニ歩き
抽斗を少しあけとくお八つどきカニ歩きでくる君がつかまる
★お菓子の抽斗をすこーしあけておくと、食いしん坊の君がこっそりやってくる、あたたかい午後のこと、、、みたいなやつです。
6. 蘭
1Kの地獄の沙汰も金次第和蘭金魚は浴槽に棲む
★地獄が1Kで閻魔も死者もそこにぎゅーっとしていたら、、トイレでもベランダでもいいから自分の場所がほしいだろうなぁ。オランダの金魚は小金持ちでまあまあのところをさっさと確保するのです。地獄にも紅い金魚は映えるだろうな(575)。
7. とり肌
とり肌のたましいみたい深更の指で撫ぜって息つきルルル
★たましいはツルツルしているイメージなのだけど、何かあったらとり肌たつのかしら。そしたら撫でてみたいですね。
8. 霜
クマに育てられたサイの冬眠は霜月に寝て師走に起きる
★「霜月に寝て師走に起き」たらおもしろいのってなんだろうっていうところから。サイって冬眠下手そうよね。
9. 末
長男で末っ子つまりヒトリッコ丘にのぼってピョーと笛吹く
★ひとりっこ。一人っ子。独りっこ。表記をヒトリッコにしたのよかったなぁとか思ったり。へそ曲がりの青年が両親の遺言だけは忠実に守ったけど、ア、いっけねえ、ってなってトンビになった、みたいな昔話が脳裡にありましたがどうでしょう(はたしてメジャーな話なのかこれは)。なんか寂しいようなしかしからっとした不思議な余韻があるように思っております。これも余白があるみたいで、皆様ちがった受け取り方されてたら楽しいです。
長男で末っ子しかし姉がいる、という可能性はあるんですが、それは野暮なのでひとりっこでお願いします。ヒトリッコってあらためてみるとすごい響きの言葉だ。そもそも存在として一人っ子にも興味があります。やっぱマイペースなんかな、とか。
10.【枕詞】ひさかたの
ひさかたの光を弄んでいるinstagramのオバケの加減
★instagramには絶対オバケがいると思うんですよ、わたしゃ見たんですよ、写真を撮ってすぐさまフィルタをかけてなにかのバーを調節しアップする一連の流れ、どんな写真を撮ったって、キラキラ☆インスタ女子の出来上がりなんですよ。っていう西暦2015年の怪談。
いくつかできたところで、動物がめっちゃいる! と思って、そこから動物界に舵を切ったところがあります。前回は体言止めが多かったのにくらべて、今回は動詞が多いなぁ、とか。詳細に語る言葉をもたないのが歯がゆいのですが、前よりは動きがあってにぎやかなのかなとか思い、満足している。単純に楽しそうな情景も多いし。ただ、最後の二首くらいで(声とひさかたの、だったかな)、静的すぎるーもっと動きをーとなってたので、まだ足りない、のかも。産婆がサンバでルンバに乗って駆け抜ける、みたいなことを考えてました。もちろんあの格好で。
(動きってそういうことなんだろうか)
短歌というものについて考えたときに、これは題詠なのだけど、正解というものがあるわけではなく、言ったら人の数だけ正解があるのだけれど、その人が詠む以外に、今この瞬間に詠むという次元があるような気がした。つまり、時流、みたいなものが。これは短歌にかぎらず小説とかもそうなんじゃないかなという気がしていて、書く人、書かれるもの、お互いに生き物である、というような着想からきている。それでそこにお題がはまる、という三点が短歌の成立を支えている、ような気がする、というようなことがメモに書いてあるのだけど、約ひと月後のわたしにはあんまり意味がわからない。でもそのときはこれが正しいとわかってたことは覚えているので、それでいいのだった。
それで次回は動きがあるように詠む、もしくは短歌からはみ出るくらいの大きなもの、についてなんとか形にできたらいいと思っている。自分のに言うことなかったら、ほかの人の短歌について書いてみたいなーとかも思った。はたして。
無意識というか前意識あたりをちら見せくらいで入れるサーヴィス
こんな感じかな、ってのが今月の感じでした。
大江健三郎『個人的な体験』(読書中)
大江健三郎の『個人的な体験』を読んでいる。まだ途中だけど気になったことを書いておく。
「なにをさがしているの? 沢蟹をさがしまわる熊みたいな恰好で」(p.94)
……鳥は手強い疲労の蟹にとりつかれた。(p.167)
ベッドにうつぶせ仔ワニのように頭を擡げた鳥と、……(p.178)
よい比喩たち。鳥(バード)は主人公の男。
感触としてはカフカの『城』を読んだときと似ている(ほかの作家を出して感じが似てるとか似ていないとかいうのってどうなんだろうね、という疑問はずっとある)。
あと、エイモス・チュチューオラ(チュツオ-ラ) というアフリカの小説家が出てきて、保坂先生が言ってたやつ! ってなった。電車の中だったけど、しおりをはさんですぐに検索してたよねー。便利な時代!
あと、大江の『個人的な体験』読んでるんですが、とりあえず風呂に入ってくれとずっと思ってます 頼むから風呂に入って清潔になってくれー!!
— letofo (@isi_kami_hasami) 2015, 11月 12
本当に早く風呂に入ってほしい。今はもうシャワーを浴びた描写があったのでひとまずは安心(でもすぐ汗をかいたりしてハラハラする)。
自作解題――遠くまで飛んでけカイト
二回目短歌の感想をば。ここはひとつ。どうぞひとつ!
秘すれば花というのは変わらずに思うことではあるのだけど、初めてのことをする、続けていく、それが自分に馴染んでいく過程を記述しておきたいという気がする。馴れてしまったらその前には戻れないからね。とはいえ、早くも行き詰まりを感じているのね。くわしくは最後に書きたいと思うのだけど。
1.上様
神様も仏様でも上様で落としたいのよ交際費でさ
★上様っていったらまず領収書。誰だって「上様」の前では平等に「上様」。「接待交際費」は長くて入らなかったですね。
2.まれ
薄明の静かな音楽小さな寝息 くるまれている、つつまれている
★まれ、難しかった。直近でいったらドラマの「まれ」なんだろうけど、「稀」でもよいし「まれびと」とか単語もあるし。単語に隠す戦略だと、されてる系ニュアンスのと命令系が多くて、それは文法上しょうがないのだけど、とにかく最後まで使う単語が決まらなくて難産。
水曜の朝、午前3時的な風景、朝方でも夕暮れでも曇りの日でもいいのだけど、ささやかな場所でささやかな寝息がきこえるのって日常の休憩点として申し分ないんじゃないかと思う。恋人でも友人でも家族でも子どもでも人が安心して眠っているのはたまらない。しかし58777なので、短歌としては△よなと思っている。
3.ピアノ
悪童の泥だらけの足先が轢く不協和音のわたしはピアノ
★このピアノのイメージが強すぎてわかんなかったのが、ほかの方のを見てやっと別のイメージにたどり着けたのだった。悪童は「いやいやえん」のしげる、ですね。指先か足先か、弾くか轢くか、って思って、「轢」の右側って「楽」に似てるなーと思ったのでこっちにしてしまった。
4.星座
あの星座とってくれろと手を伸ばす 欲しいのはどれ 嗚呼かみのけ座
★サラリーマン川柳か! ほぼ迷いなく書いてしまったのだけど、ゆえに完全に頭の中でできてしまって身体性ゼロだなと反省している。しかし意外とかぶらないものだな、とも思った。
5.々
何にでもなれるんですよ我々は前の誰かに続いていれば
★まさかの漢字自己紹介。
6.G
Gくらいあるでしょなのにブラジャーもつけずにゆるされている男性
★迷って迷ってけっきょく手帳にメモってあった「男性はブラジャーしなくていいからうらやましい」を持ってきた。なんなんだろうねこのメモ。細かいことをいうとサイズはアンダーとトップの差だからー男性でGカップとかー(以下略)なんだけど、体感的にはある。「木村拓哉のG-SHOCK」は思いつけたんだけど切りました。合掌。
7.眠
何百年眠って待つわ王子様えり好みする費用対効果
★眠るのが超好きなので、寝てるだけならお安い御用で、ねむり姫的な人々も百年なんて気にしないで眠るんかなーと思ったりした。眠りをコストと考えるかどうかですね。なんつってー。
8.紫
本日も老婆が紫御髪(おぐし)キメ いきいきハッピー☆健康プラザ
★出勤途中にある健康プラザ的なところに高齢の方が群がっているのを見ると、とても微妙な気持ちになるのだった。しかしまあ皆様満足して通ってますからね。
9. ひたひた
こぼれそな心臓ひたひたエントロピーエントロピーの明るい渦巻き
★今回はこれが一番自分から飛んで行ったなぁという感じがする。心がざわざわするときは「エントロピーエントロピー」と唱えて落ち着く。
10.【枕詞】秋の田の
秋の田のさんざめく穂の内側に過去と未来が折り畳まれてる
★はじめは秋の味覚がたくさん入ってたのが、他の人の歌を見て路線を変更。めちゃくちゃわたしっぽいなと思ってしまう(過去と未来が折り畳まれてるというへんが)。
あと、「折り畳まれてる」が8で、たとえば「折り畳まれて」で7にしたら座りはいいのだけど、妙なプライドというか、わたしはそこで止まれないナーとか思ってしまった。短歌の本とかを読んでいて、ここをこうしたら綺麗に57577になるのにと思ったことがあり、その作者たちもこんなような気持ちで字余りとか字足らずにしたんだろうかとか考えた。歌として外に出してしまったら個人のこだわりなんてどーでもいいよなーと思ったので、短歌側からの要請がない限り、可能であるならば57577を守った方がいいような気がした。気はする。
前回と同じくまず最初はお題を眺める、紙にメモを書いていく。それをとりあえず文章にしてみる(できるならば57577を意識して)。のが、この時点で文字があふれるあふれる575788とかになってる。多すぎる。のをどうにか整えたり。整えるのは言い方を変えたり順番を変えたり、場合によっては枝を切ったり。これは前回よりばっさり切れるようになった。当初の案はいちおうメモにとってあるけど、今となっては完成形の方がだいじで振り返ることはほぼない(不思議だ)。「上様」「星座」「眠」は最初のイメージからほぼ変更なし。「ピアノ」「ひたひた」「秋の田の」は半分くらい浮かんでたかな。
でも全然思い浮かばないのもたくさんあって、そのへんでほかの投稿を見にいく。それで、ホーとかウーとか思って、なんとかほかの方向性も決めていく。自動的に決まるはないから決める。この段階で思いつけたのは「々」「G」、考え直したのは「ピアノ」「秋の田の」。思いついても決まらないのは考え直しで「G」と「紫」はけっきょく手帳のメモから持ってくる。「まれ」が決まらなすぎて、「まれ」のつく単語をずーっと書き出すという作業。そんな感じでフウフウ言いながら終了を自分で言いわたし。名詞で終わるのが多くて、そういうのが固定化されると雰囲気が似てきてしまうような。
本当に性格が出るなぁというのがあり、心情をうつすという点で、こういう心理学のテストがあったと思って少しげんなりしてしまった。歌たちにはわたしから出てきながら、どんどん遠くに行ってもらいたいと思った。
半年くらい前かと思うけど、物語だ小説だと考えていたころに目にうつるすべてのものがメッセージ的に「物語的どこでもドア」みたいなことを書いたのだけど、歌に続く扉もどこにでもある。現に今回も日常の延長で読めた歌がある。のだけど、ほかの方の歌を見ていて、この人うっま! ってなった人たちはもうレヴェルが違い、どこでもドアどころかスペアポケットを持っていて、何もないところから素敵なものものをひょいひょい取り出している(ように見える)(あとなんか、良い下の句を見つけておければそれだけで決まる感じがある)。それは熟達はたまたセンスの問題もあるのだろうけど。それでわたしは慣れたいのか上手くなりたいのかよくわからずに、でもなんとなく真似て上手いっぽくなってもしょうないなと思えたので、なんか自分路線を行くしかないなと思っている。歌よ歌よ大空どこまでも行ってらっしゃい。しかしカイトの糸をもっているのはわたし(なのか?)。