ビグルモワ

すべて物語にしてしまいたい

しるし

 少し前から気になっている人がいて、その人に、どうするか、どうしたいかということを頭の隅でずっと考えていた。いや、今も考え中。強くしなやかで若い彼女から目が離せない。とてもきれいな人なのだ。

(飽きていなければ)彼女がこちらを見ていることを私は知っている。私も彼女を見ている。見ていたい。しかしそのことを普通のやり方で伝えるのは憚られている。

 つまり、正面きって訪ねて行ってドアホンを鳴らし、出てきた彼女に握手を求める、というような。そんなことをしてはいけない。特別な彼女は特別な方法で愛されなければならない。できることならば、私は彼女を隠しておきたい。秘密にしていたい。私だけが見ていたい。

 私が考えあぐねている間に幾人かがやってきて彼女に目を付けた。それ自体はしょうがないことだ。人は美しい薔薇を愛する。しかし私には薔薇がたじろぎ、身震いするのが見えた。困っているのだ。やはり、気高い彼女には特別なやり方が必要なのだ。

 私は彼女にしるしをつけたい。私のしるしをつけたい。慾望。誰にも見つからず、私の庇護のみで生きていてほしい。視線の柵をいくらでもあげたい。私だけが見ていたい。彼女の美しさを、感情を、気高さを、私だけが見とめ、吸い続けるのだ。

 この甘やかなねじくれた感情が世に通用するとは思わないけれど、私と彼女にとっては何よりも正しいのだと信じてやまない。