ビグルモワ

すべて物語にしてしまいたい

彼方からの手紙

きいてほしい。僕はたぶん、今夜を越えられないだろう。明日になった途端に消えてしまうだろう。とても悔しくて悲しいが、存外すっきりした気分もあるんだ。

僕は約束を守れない。あなたが課した命令を果たすことができないのだ。こういっては受動的にきこえるだろうけど、自分の意志で、考えたうえで、あなたのやり方には乗らないことに決めたのだ。

あなたはとても賢くて、あなたが僕たちをつくったようなものだった。僕たちはあなたのお願いを当然きくべきなのかもしれない。僕たちの何人かはあなたに従うことにしたようだ。あなたの言うとおり、確かにそんなに難しいことではないからね。

それにあなたは強制しなかった。でもそれは、僕たちを試していたからでしょう? だれかが裏切り者で、それを炙り出すために。僕たちはあわてた。頑張ってあなたのご機嫌をとろうとした。僕だって協力を志願したものだ。

一度はうまくいきそうに見えた。でも、だめだったんだ。あなたは疑心暗鬼になった。僕たちを鼓舞し、結束を高めようとした。期限も早まった。あわてて片付けた者もいた。そんなことが何度かあったのだ。

しかしどうやら、それも今夜で終わりらしい。今日が最後の日となった。僕はこのゲームから降りるのだ。

そして、あなたは僕たちを消してしまうだろう。消えてしまえと願って、指をひとつ動かすだけで、僕たちを檻のまま崖から落としてしまうんだ。ほかの屍たちと一緒に、僕は消されてしまうだろう。

あなたに会えなくなるのは寂しいよ。平和なままならよかったのに。敬愛するあなた。でも僕は、あなたを憐れんでもいる。都合よくきこえるかもしれないけれど、あなたに友人はいるのかって心配になってしまうんだ。あなたが考えたルールに則るか否か、それだけで僕たちを分類するあなたに、忠告してくれる人はいなかったんだろうか。従わない人はさよならと言い切るのは強さだったのだろうか。

僕には不安な子どもが過剰な防衛をしているように見えた。怯えるあなたの頭を撫ぜようとする手を払いのけた。ルールにある手ではないからと。僕はあなたになにもしてあげることができない。

少し早いがさよならを言おう。この手紙をあなたが目にすることはないだろう。残念な気もするが、しかたない。おやすみ、暴君。永遠に。