ビグルモワ

すべて物語にしてしまいたい

10月の短歌――おとことくらすおんなもくらす

soulkitchen.hatenablog.com

 

わいわい! 短歌で知るイッカゲツ! という刻みでの短歌。短歌の目、ありがとう。ひと月ってあっという間じゃない? って思ったけどその前が半年以上空いてたからそんな気もするのかもしれない。詠んだよのあれこれを。

 

1. 渋

 なんじ善き蟹には褒美をとらせよう悪しき蟹には渋柿泡刑

 

★自分で出したわりにむずかしくない? 渋ってなった(出した時には渋谷とか渋滞とか思ったんだけど)。昔話っていい爺さん(婆さん)と悪い爺さん(婆さん)の系譜みたいのがあり、もしあの蟹がいい蟹だったら甘い柿を投げられて死なず一族仲良く暮らしました、みたいな話もあったのかもしれない。でも悪い蟹は渋柿を投げつけられて泡を吹いて死んでしまった。


2. 容

 受容せよ陰毛便座体臭鼾おとことくらす隣でねむる

 

★57777なのでゆるせよ枠(ゅるせょ枠)。とにかくちっぢれた毛が落ちていること、以前も書いたが伝えたい。あれはなんなのか!!! 性別逆にすれば髪の毛落ちすぎ、なのだろう。おそらく。他人とくらす、でいいんだけどもう一歩いった。あと殿方って異音しませんか、というのはまたどこかでやりたいと思います。ひらがなで「おとことくらす」の生々しさとファンシーさが個人的に気にいっている。許容じゃなくて受容なんだー。


3. テスト

 待ち合いで野性のテスト子どもらのその時だけは試験者である

 

★つくって満足していたら「テスト」が入ってなくてびっくりした。生きてるかぎり一生テストみたいなもので、それは自然状態にいればなおのこと。すると実は人間は野生生物よりテストの回数が少なくて(もしくは合格の範囲が広いのかも)、ハーそれが文明社会みたいなことを思ったりして。子どもが大人より野生に近いのだとしたら、かれらの方がわたしたちを試す側に近いのやもというようなフードコートでの観察。


4. 新米

 黄金のこうべ横目に古米背負いスズメが先に味知る新米

 

★消費者としてのわたし達が新米を入手するにはそれなりの注意深さが必要なのだけど、スズメなんぞはなにも考えず秋になれば新米を食べられるのであった。田圃には赤く塗られた小さな煙突のようなT字がささっていて、それはなにかと思えば突然に大きな発砲のような音がして小鳥たちを追い払っている。類似に大きな目玉が書いてある風船やCDなど。効果あるのだろうか。田舎の秋の風景。最後の最後で「新米」の位置を変えた。


5. 野分

 幸福も不幸もわからぬ吾にして野分ききをり暮れるキッチン

 

★幸福も不幸も、とくに他人のことについては簡単にいえないのだけど、ああそれは大変ですねぇ、といいたくなるようなことが何度も身に起こる人がいて、それに比べれば(いや比べるというのも変な話なのだけど)わたしなんてなにも経験していない甘ちゃんなのですがと思い、でもだからわたしの人生よかったよかったとも思えず、わかるよ大変だよねがんばってねとも言えずへだてられている気がしてしまうのであった。

 

テーマ詠

 テーマ「空」

 

 およばれのため空腹でいます チョコレート一種類ずつ食べてます

 

★「そら」じゃないもんねー「から」かもしれないもんねーっていう天邪鬼的なやつ(でも小心者なので「そら」でもつくった)。

 

 秋空のなにもなければ寂しかろ飛行機が雲貼り付けていく

 

★秋の空は雲がなくては、となんだか思う。秋の空の色は透き通っていて実体がなくてすり抜けて宇宙まで行ってしまいそうなので、雲を貼っておいてくれると安心する。

 

 この空は続いているとたれか言いそのためにのみ生き続けてる

 

★小さいころに知った詩が、なんだかけっきょくずっと自分に響いていると思った。空間的にも時間的にも人々にもあなたの心の中にも続いているのですよ、という内容はよく考えたらすごい話であった。

 

今回は皆さまの提出が遅めでなかなか参考にできずやきもきしました。滑り込みが多かった(わたしも)。とにかく綺麗なだけの言葉や風景を並べない、というのは短歌以外でも考えているところ。身体性(しかし誰かにとってはぺらぺらだったりするのかもしれない(のでそこをどうにかひとつどうにか))。

はじめにイメージをふくらませようと思って、熟語や単語をたくさん書いてみたりするのだけど、そういうのより"感じ"の方がいいのかなとなんだか思った。イメージよりもひとつ深く、物語をひきずらせるように思考をしてみたらどうか、など。ふだんの生活ではなかなかイメージにたどり着けない、のか。浅い物語を否定するわけではないのだけど、頑丈な空想がほしい。のかも。いやそれより思想、なのか。思想といわれると自分の弱さは自覚しているのでどうしたものか悩む。

『チャーメインと魔法の家』を読んだ

ジブリの映画『ハウルの動く城』には原作があり、続編と続続編があるということ、みんな知っているだろうか。原作は『魔法使いハウルと火の悪魔』であり、動く城にあの造形をあたえたのは宮崎駿なのだよ。映画は映画で賛否両論あろうが、わたしは好きだ。原作が好きすぎての贔屓目の可能性もあるけど好きだ。説明足りなくない? と思う部分もあるが好きだ。

それで今回の『チャーメイン』はナンバリングでいくと3番目に書かれたお話なのだけど、1番目と2番目とはおよそ20年あけて書かれていて(2008)、単行本の初版が2013年5月、徳間文庫になったのが2016年4月なので、当初のファンも見逃しているかもしれない(映画は2004年の11月公開)。続続編がある! とわたしが気づいたのも最近。

 

チャーメインという本の虫の女の子(いちおう学生)が色々色々する話で、ハウルとソフィー、カルシファーも出てきます。アブダラは出てこないけどジャマールと犬は出てきます。それでこのお嬢さんがおとなしい良い子かと思えばまったくそんなことはなく、面倒くさがりで家事のやり方もまったく知らないしかっとなるとひどいことを言うしで半分くらいまでただただつらい。本を読みながらパイを食べて、かけらが本にはさまるのをそのパイではらうのとかやーめーてーくーれーーーーーとなりました。ぞわぞわした。相方で若い男の子もいて、この子がおもにチャーメインの被害者なのだけど。こちらもこちらでとんちんかんなことばっかりしています。

とくにだれにも感情移入できないので、「真面目な登場人物が損をしている!!」みたいな悲しさはなく、それはよいのかも。考えてみたらほかのキャラクターたちも自分の都合のことしか考えてなかったり大声で主張したりするだけで、そもそも快適な本ではないのかもしれません。よく考えたら『ハウル』も『アブダラ』もそうだった気もするけど。

これだけ言っておいて、オススメ☆という結論にしたいのが恐ろしいのだけど、前述のチャーメインへの没入できなさも大体半分くらいまでで、後半の彼女にはたいへんに好感がもてます。自分を見直し、できることを精一杯やろうとこころみます。だからといって、事態が好転するわけではなく、筆者は無慈悲に状況をえがいていくだけなのですが。最終的にはすべてがまわりまわって大団円になるマジック。魔法の存在が強力すぎるので(使っただけで解決してしまう)、それまでの謎をややこしくしてあるように思える。

変身、不思議な家(城)、犬あたりが三作品ともに出てくるモティーフになっている。今回もジャマールの犬がアレするのだけど、大丈夫なのかな。前回は天使がついてみはっていたはずだけど、というのが心配になった。

 

さて、気になった部分をすこしだけ引用。

「ふーん。過去って、最高のゴミ捨て場よね」(チャーメイン) p.180

 

「ほほう。火の悪魔というのは、読書好きなのかね」と王様。

「普通はそうでもない」とカルシファー。「だけどソフィーはよく、おいらに本を読んでくれるんだ。おいら、謎解きのある話が好きだな。だれが人殺しかあてるとか、そういうやつ。ここにそういう本はあるかい?」 p.197

 

やりとりはやっぱりおもしろいし、魔法のある世界、不思議な種族、本が大好きな王様と王女様、このファンタジー世界が好きならば読まない手はありません。それに、美青年のハウルも出てきます。

 

チャーメインと魔法の家: ハウルの動く城 3 (徳間文庫)

チャーメインと魔法の家: ハウルの動く城 3 (徳間文庫)

 

 

作者のダイアナ・ウィン・ジョーンズは2011年に亡くなっており、『動く城』シリーズの新作の構想もあったらしいのだけど、それは永遠に読めなくなりました。残念。ともかくこの素晴らしいファンタジーを楽しみたい、楽しんでほしいと思う次第です。

9月の短歌――ふとれマイオスって言いたいだけ

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おつかれさまです! 久しぶりの短歌の目、すべりこんだののメモを残させてください。今回はいつになく推敲ができたので、それだけはとてもとてもよかったです。(客観的に)よくなったかはわからんですけど、自分の満足度が上がるので。うれし。

馬だけでなく鹿も肥ゆれよ。twitterでも言ったけど、たぶん「肥ゆれよ」は間違いで……しかしまあいいことにしました。いたしました。

お題が5首になったので、それはとても気楽なことでした。アイデアを出す段階では同時的に考えるので、あれもこれもになってしまいがち、なのが抑えられた。

 

 

1. 星

 星型のぎとざとぎとざで待ち合わせ余ったやつらで缶けりしよう

 

★はじめにできて捨てられ、次のはうまくはまらず、これも最後の最後で下の句が差し替えられた。途中で出てきた「ぎとざとぎとざ」にUターン。☆の角のぎざぎざのことを考えた。

 

 

2. 吹

 まだこない朝にくちぶえ吹いているくるり女の体温計よ

 

★電池が切れる寸前の体温計が朝からピーピー鳴っており、眠すぎたわたしはそれを身体の下に隠してまた眠った。ピーピーは朝方が多く、電源をいれる分にはふつうの挙動。背中の下の体温計はわたしが少し動くと隙間から叫ぶ。新しい電池を買いに行った。あんまりよくない単語をつかおうかつかうまいか悩んでやっぱりやめて、それがくるり女になった。

 


3. はちみつ(蜂蜜、ハチミツも可)

 いい夢が見られますよに宝船はちみつインクしたたむ熊田氏

 

★自分で出したお題。誕生日に小さな小瓶の蜂蜜をもらったのを、食べたあとは万年筆のペン先を洗うのにつかっている。のではちみつをインクに、というのは考えていたけど、恋文でも書こうと思っていたらいつのまにかクマの冬眠前のおまじないになってしまった。そのままクマで体言止めだったのを、どうにか熊田氏でねじこんだ。クマの熊田氏みたいなのかわいいよねぇ(自己満足)。

 

 

4. 川

 この川を渡れど会はることのなし橋の下には笑う狛犬

 

★実家の近くにある川と神社がイメージ。なのだけど、少し前に亡くなった祖母のことを考えて、祖母を見送った母のことを考えて、その川はもうただはっきりとあちらとこちらを分けている。それと古語! がんばった古語!! そしたら笑ふ、なのかしら。投稿ぎりぎりまで文法を調べていて、そのスリルもつまっている。(合ってますように!)

 

 

5. 秋刀魚

 ヤア秋はきみの季節だにっぽんの食卓泳ぎ抜けろよ秋刀魚

 

★まったくイメージが出てこなかったのを先に出された方々の歌をみて、みなさまユーモラスに詠まれているのが楽しくて、力強く泳ぎぬけよ、秋刀魚!!! って思ったらできました。一番最初にかたまって動かなかった。すごいぞ秋刀魚。えらいぞ秋刀魚。

 

 

テーマ詠

 テーマ「秋」

 

 夏の遺物 霜つきアイス細長い麦茶のパック果てぬ宿題

 

★麦茶ばっかりつくっていたなという印象で、麦茶のパック買い置きしていたのが、丸々ひとつ残ってしまった。冬まで残る宿題になりそう。九月はまだ一応大学生は夏休みなので最後にひとつ入れておきました。

 

常陸屋本舗 江戸麦茶 380g

常陸屋本舗 江戸麦茶 380g

 

細長い麦茶。得点を集めて送るとハンカチがもらえるらしい。

 

 

 おかわりの大盛りお茶碗なく鹿のふとれマイオスきみは出べそさ

 

★肥れマイオスといわれたのはわたし。自分のお腹が出てきたのを気にしてわたしにご飯を押しつけてきた人の言葉です。それでフトレマイオスって言いたいだけ。

 おわかりと思いますが、下敷きにした歌があります。猿ちゃんアリガト!

 

奥山にもみぢふみわけなく鹿の声聞くときぞ秋はかなしき 猿丸太夫

 

 

 ふと風も光もかたむき色あせてフィルムのなかの秋だったね

 

★わたしの秋というのを考えたら、ぐっと涼しくなった風で、網戸越しに見える外の空ははっきりと青で夏と変わらないように思うのに、忍び入ってくる風の冷たいこと。そう思って外を見て、夕暮れなんぞをながめると確かに往時の激しさはなく、暮れていくばかりの、秋。そういう感じ。なのでこれはとても素直に詠んだ。

 

 

というのが今回の短歌についてのもろもろでした。

前回からかなり日が経っていて、その間にも57577の文字遊びを楽しんでいたけれど、どこかに出すためにつくったのは久しぶりで悩ましかった。〆切がないとどこまでも言い訳になってしまうからだめね、と思った。なので、短歌の目、ありがとう。

そうそれで、少し時間もあったのでまあまあ短歌を読んで、知れていて、そういう意味ではちょっとつよくなったぞという感じ。「短歌の作り方」みたいな枠で一首一首とりあげられているのと、この歌人傑作をご紹介みたいなのと、歌集があって、歌集を読むのがなんか一番良いのでは(学習効果高いのでは)と思ったのであった。有名な歌の人は「こういう人」っていう評価がだいたい決まっているから、その歌の詠み方がだいたいわかってしまう。のだけど、とくに有名でないわたしとかが詠むときには手探りすぎてふわふわしてるし、見てくれる人も背景をわかってなくて、その歌だけをただただ味わってくれる。本来そんなものよねとも思うけど。

背景不明瞭な人の一首一首を受け取るのはなんだかお互いにうかがいあって緊張している感じ。それが歌集だと、その中でさらにタイトルをつけられて連作でいくつもまとまっていると全体をとおしてああこういうことねと思ってもらえるので、少し気のぬけた歌があってもよいし、それがリズムになる感じ。読む方もリラックスできてよいぞよいぞと思ったのであった。単純にページのほとんどが余白っていうのが楽だったのかもしれないけれど。テーマを決めて何首か詠むの意味が分かりました。今さら。すみません。押忍! というこのへんでおしまいにします。チャオチャオ!